米国における遠隔教育の現状

 

ヒット カウンタ
since 2001/2/15

(1)延べ130万人が受講

(2)基盤を作ったマイクロ波割当

(3)様々な配信チャンネル

(4)継続教育への需要:キャリアの自己管理

(5)企業との連携

  

 

(1)延べ130万人が受講

米国においては、五千校を超える大学(四年制+二年制)で、合計五万余りの遠隔教育コースが開設されており、単位認定を行うコースだけでも延べ130万人以上の学生(四年制+二年制)が学んでいる(表1参照)。その方法も、マイクロ波や衛星回線を用いたテレビ映像の配信、ビデオ・パッケージやCD-ROMの配布によるもの、インターネットによるもの等、多岐にわたっている。有名な遠隔教育プログラムのカタログである"Peterson's Guide to Distance Learning""Barron's Distance Learning Guide"等においても、700800種類の遠隔教育コースが紹介されている。

このように遠隔教育が普及した背景には次のような要因を指摘することが出来る。

  • 国土が広いこと

  • キャリア開発の為の自己投資に熱心であること

  • 技術者資格の維持のために継続教育(Continuing Education)が需要されていること

  • 政府も遠隔教育用に電波資源の割り当てを積極的に行ってきたこと

 

表1 米国における遠隔教育(単位認定コース)のコース数 / 学生数(千人)

 

四年制大学

二年制大学

合計

 

公立

私立

公立

 

学部

11,190 / 290

4,950 /  91

18,820 / 610

35,550 / 1,082

大学院

9,310 / 163

4,790 / 118

---

14,140 /  281

合計

20,500 / 453

9,740 / 209

18,860 / 610

49,690 / 1,364

出典:清水康敬(2000)、「米国大学における遠隔教育の実施状況」
バーチャル・ユニバーシティ研究フォーラム第二回発表資料

 

 

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(2)基盤を作った教育用マイクロ波割当

米国における遠隔教育の普及を支えた要因の一つとして、1960年代から始められた教育用テレビ放送に対するマイクロ波割当措置がある。本報告書で取り上げるポートランド州立大学やスタンフォード大学も古くから地域向けの教育テレビ放送を実施しているが、いずれもこの措置を契機として始まったものである。日本において今後このようなマイクロ波割当措置がとられる可能性は低いが、米国における遠隔教育普及の背景を理解する上で重要な要因であると考えられるのでここに紹介しておく。

この措置とは、1963年に連邦通信委員会(FCC)が2,5002,690MHzのマイクロ波を教育用に割り当てた措置を指す。これはInstructional Television Fixed ServicesITFS)と呼ばれ、テレビ20ch分に相当する。

広大な国土を持つ米国においては、全ての国民に教育の機会を与える上で電波の利用は不可欠である。日本における小学校の総数は国公立私立を併せて23,639校あり、分校の549校を加えると24,188校となる。全国土面積で割った面積密度は0.06校/平方キロ、逆に1校がカバーする面積は16平方キロであるから、4キロ四方の通学圏を想定すれば平均通学距離は1キロメートル余りとなる。一方、米国の小学校総数は90,874校(public primary schoolのみ)であるから、単純に計算すると面積密度は0.009校/平方キロとなり、1校がカバーする面積は106平方キロとなってしまう。実際に通学圏が問題となるのは西部や中央山岳部の人口希薄地帯が主であるが、米国の14,500学校区(school districts)のうち、こうした人口希薄地帯の学校区は、生徒数150人以下のものだけでも1,762学校区あるという[1]。こうした条件のもとで、教育への放送の利用が開始されたものである。

こうした事情は大学教育においても同様であり、ITFSの利用は60年代末から大学教育へも広がっていったようだ。カリフォルニア州を例に取って説明しよう。同州の面積は約16万平方マイル(約40万平方キロ)であり日本の全国土面積よりもひろい。カリフォルニア州立大学は21のキャンパスを持つがその中で最大の地域をカバーするChico校は同州面積の21%に相当する北部の3.3万平方マイル(約8万平方キロ)を対象学区とする。これは北海道全体に相当する広さである。Chico校における遠隔教育は、まず、教官が遠隔地まで出向いて出前授業を行う(faculty driving)ことから始まったようだ[2]。しかし60年代末から70年代にかけてITFSを利用した地域向け放送教育が始まり、また同地域の他の大学システム(例えばカリフォルニア大学システム(9つのキャンパスを持つ)、カリフォルニア・コミュニティ・カレッジ(106のキャンパスを持つ)等)との間での伝送用マイクロ波網等が構築され、今日のような遠隔教育のネットワークが出来上がっていった。

2 面積・学校数の日米比較:小学校と大学

 

日本

米国

国土面積

378,000平方キロ

9,364,000平方キロ

人口

12,640千人

267,900千人

小学校数

24,188

90,874

大学数

1,207

3,000校(?)

注:日本の小学校数は分校も1校とした。大学の複数キャンパスは考慮していない。

出典:日本統計年鑑(平成13年度版)、米国教育省(http://www.ed.gov/

 

しかしながら、現在ではITFSも危機に曝されている。第三世代携帯電話の登場など、ますます増加する電波需要のもとで、ITFSに割り当てた帯域をこうした新しい需要に振り向けようとする動きが急である[3]

また、到達距離が2030マイルという制約もあって、衛星のKバンドやCuバンドを使った配信や地上の専用線を用いた配信も多く使用されている。初等中等教育や大学の教養教育プログラムにおいては、空間的制約はたいした問題ではないが、より専門的な技術系のプログラムの場合、対象となる受講生がそのような狭い範囲に集中しているということは基本的に期待できない。スタンフォード大学の場合、マイクロ波の到達範囲がシリコンバレーをカバーするのに十分な広さを持っており、その範囲に優良な「顧客」を抱えることができているがこれはむしろ例外である。ポートランド州立大学では、シアトルのボーイング社に百人規模の受講生を持つが、シアトルはいうまでもなくマイクロ波の到達範囲外であり、専用通信回線で対応している。全米工科大学(NTU: National Technological University)は当初から衛星回線のみを用いて遠隔教育をスタートした例外的な存在であり、衛星回線の強みを生かして海外での受講生開拓にも努力している。

 

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(3)様々な配信チャンネル

こうした経過を経て、現在では多様な配信チャンネルが利用されている。その現状及び将来見通しをまとめたものが次表である。

 3 遠隔教育における配信チャンネル

 

メディア

1995

1997-98

今後三年間に開始・増加させる予定

今後三年間に実施の計画なし

ビデオ音声双方向

57

54

61

34

ビデオ片方向/音声双方向

24

14

17

79

ビデオ片方向(ライブ)

9

6

14

84

ビデオ片方向(録画)

52

47

35

54

CD-ROM

31

69

インターネット(同期)

19

60

39

インターネット(非同期)

58

82

16

出典:清水康敬(2000

  1の「ビデオ音声双方向」は、ITFSマイクロ波や衛星回線を双方向に利用した場合に相当し、2はITFSや衛星回線を1回線だけ用いて電話により音声回線を双方向に補完した場合に相当する。4の「ビデオ片方向」はいわば放送大学型のメディアに相当する。CD-ROMのようなパッケージ型メディアも引き続き多用されており、ハイパーリンク型教材を実現する非同期/自己学習向きのメディアといえる。

これまでの使用動向や今後の計画からも読み取れるように、双方向性が全く(あるいは殆ど)期待できない「ビデオ片方向」は、自己学習に使用できる「録画ビデオ」を除いて次第にその比重を低下させており、これに代わってビデオ双方向型とインターネット利用型が増加する傾向にある。特に自己学習のための非同期インターネット学習は82%が利用するという結果となっている。米国におけるインターネット利用環境は日本よりも好条件にあり、実効伝送速度も56k程度は確保されているようである。なお、これ以外にも非電子メディアとして印刷物であるテキストが遠隔授業の重要なメディアとなっていることは言うまでもない。

 

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(4)継続教育への需要:キャリアの自己管理

他方、需要面から遠隔教育を支えている重要な要因として、生涯教育に対する高い需要が存在することを指摘する必要があろう。一般的にいって、職業上のキャリアを設計し、また実践するという点において、日米には大きな態度の相違がある。日本では、少なくとも終身雇用が一般的だった時代においては、それは会社によって管理されていた。あるいは会社による管理に本人も安住していた。これに対して、米国では、このことは基本的に本人の領域に属する事柄である。職業上のキャリアを自己管理し、またこれを武器にステップアップして次の職場へチャレンジするというのは他人に任せることのできない事柄である。遠隔教育プログラムへの参加にあたって雇用主が費用負担を行うケースも広く見られるが、この場合でも参加への動機付けは本人自身の側にある。

技術者の場合この問題は特に重要である。多くの技術者資格はその維持のために生涯教育の実践を要求する。各種セミナーへの参加、Certificateの取得等については職業的研鑚の実践として記録され、資格更新の際に正式な実績として考慮される。本報告書にも登場するが、各種の短期セミナーやエグゼキュティブ・プログラムは、受講した場合に付与されるCEUcontinuing education unit)の単位数を明記しており、これが資格更新の際に考慮される。どのようなプログラムをCEUとして認めるかについても、国際的基準が設けられている[4]

これに対して、日本では技術者の生涯教育問題はまだ検討が始まったばかり、あるいはまだ全く手がつけられていない状態にある。APECエンジニア制度の発足[5]、それに伴う技術士制度の改革等の動きもあり、またAPECエンジニアとして審査・登録が始まる9分野の中でも大きな比重を占めるCivil Engineering分野では、日本土木学会において国内の土木技術者資格制度の検討が始まった。土木学会の提案する新制度のもとでは、継続的職業教育の実践が資格維持の要件となっている[6]。依然として多くの技術系学協会はこの問題に全く着手していないが、いずれ、こうした認識の高まりとともに、日本でも継続的職業教育への需要、遠隔教育への需要が高まりを見せるであろう。米国の先例に倣うならば、こうした過程でMOTプログラムへの期待もまた高まることが予想される。

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(5)企業との連携

企業の側にも、勿論動機付けがある。本報告書で述べる三大学のMOTプログラムは、少なくとも遠隔の受講生、パートタイムの受講生に限ってみればほとんどが雇用主のスポンサーによる参加である。そして、それは基本的には参加者本人の発意に基づいて行われているのであるが、企業と大学との間で、組織的な連携関係が構築されているケースも多い。

スタンフォード大学の場合には、遠隔教育プログラムに対して雇用者を派遣できるのは、SITNと呼ばれる教育テレビネットワーク(Stanford Instructional Television Network)の会員となった企業だけに限定するという形で雇用主のスポンサーシップ基盤を固めている。この会員制度は、スタンフォード大学における継続教育事業のビジネス・モデルを体現しているものとも言える。

また、NTUの場合も同様であり、衛星配信プログラムの受信局は基本的に企業或いは事業所単位に、企業の負担によって設置される。スタンフォード大学のような会費制度は採っていないが、基本的なモデルは同様である。

日本において現職技術者の継続教育プログラムを考える場合にも、こうしたビジネス・モデルは大いに参考になるものといえよう。

 


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[1] National Center for Educational Statistics, http://nces.ed.gov/surveys/

[2] この項の記述はカリフォルニア州立大学Chico校のComputer Science Programの歴史に関するホームページを参照した。 http://rce.csuchico.edu/sen/history.html

[3] 例えばTech Law Journal記事(http://techlawjournal.com/broadband/20001103.asp

[4] International Association for Continuing Education and Training (IACET)によるGuidelinesがその基準となる。一定の基準を満たす研修プログラム10時間の履修が1CEUとして認められる。IACETホームページ参照。http://www.iacet.org/

[5] APECエンジニア制度は、五つの資格要件の中に、「継続的な専門能力開発(Continuing Professional Development)を満足すべきレベルで維持していること」が含まれており、具体的には「CPD実施を毎年50CPD時間(時間重み係数を考慮した時間)程度、5年間で250CPD時間を行うことが要件」とされている。CPDとはContinuing Professional Developmentの略であり、ここでは継続教育実績が時間数で評価される。技術士会ホームページ参照。http://www.engineer.or.jp/

[6] 土木学会では、平成11年に、理事会の承認を得て「土木学会技術者資格評議会」を発足させた。現在検討されている土木学会技術者資格制度においては、「資格の登録期間は5年とし、継続教育成果の証明等によって、登録を継続する」との規定が置かれており、これが実現すれば、継続教育の実績が参照される国内資格制度が誕生することになる。詳しくは土木学会ホームページ参照。http://www.jsce.or.jp/

 


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last updated 2001年02月15日

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