韓国の科学技術政策

 

三上喜貴@長岡技術科学大学 計画経営系

 

目次

 

         R&D活動の概況

(1)        歴史的概観

(2)       R&D支出の水準と配分

(3)       人材の雇用構造

(流出頭脳の呼び戻し)

 

2      科学技術行政機構と政府のR&D活動

(1)     科学技術行政機構の概要

【科学技術政策関連の主な法律】

(2)        ナショナルR&Dプロジェクト

(3)       国公立研究機関

(4)       政府出捐非営利法人:GRIs

(5)     最近の政策動向

 

3      高等教育の体制と大学のR&D活動

(1)     高等教育の体制

(2)     大学のR&D活動

 

4      民間企業のR&D活動と政府の振興策

(1)     民間企業のR&D活動

(2)     政府の振興策

 

【参考文献】


1 R&D活動の概況  

(1) 歴史的概観

現存する世界最古の天文台とも言われる瞻星台(チョムソンデ)に見られる如く古来朝鮮には天文学や医学の古い伝統があり、またグーテンベルグよりも200年早く金属活字を鋳造して印刷を行う ! 等、世界の諸文明に先駆ける先進的な技術を生み出してきた歴史を持つ。こうした歴史上の科学技術の発展にあたっては、中国文明との交流からも多くの刺激を受けたものと想像されるが、朝鮮独自の成果も多く、日本もまた製紙、建築、陶磁器など多数の技術を朝鮮から導入してきた。しかし近代においては西洋科学技術との直接的な接触があまり広がらず、固有の近代的な科学技術推進体制も十分な発達を遂げないまま日本の植民地時代を迎えた "

そして第2次大戦終結後は独立を果たしたものの冷戦構造のなかで直ちに国土を2分され、また1950-53年にわたる朝鮮戦争によって再び国土が戦場と化すという不幸な出発から始まった。しかし繊維、造船、製鉄、更にはエレクトロニクス等の各産業分野で極めて積極的な技術導入を行い、1960年代以降急速な産業発展と経済成長を遂げた。

こうした中で独自のR&D活動が開始されたのは1960年代末である。米国の支援によって韓国科学技術研究院(KIST)が設立され、また科学技術振興法が制定され、国による科学技術活動が始動した。その後政府は自らのR&D投資を拡大するとともに、企業の研究所設立と独自技術の創出を奨励するため様々な税制上、財政上の支援策を導入し、また国家プロジェクトへの企業の参加を進めた。しかし80年代の初頭までR&D支出の対GNP比は1.0以下に留まり、またR&D支出に占める政府比率は半分以上であった。ようやく1982年を境に官民比率は逆転し、以降民間企業のR&D活動の活発化により、韓国のR&D活動は本格的時代を迎える。

 

(2) R&D支出の水準と配分

韓国では80年代後半以降、R&D支出が名目で2030%、実質でも1020%のペースで拡大し、94年におけるR&D支出は約8兆ウォン(約100億米ドル)に達した。絶対額でみるとこれは丁度イギリスの半分程度であるが、対GNP比でみると2.61%となり、既に多くの先進国を上回る水準となった。韓国の調査では、R&D活動の主体について「試験研究機関」「大学」「企業」という3分法がとられている。「試験研究機関」には国公立の研究所の他に、韓国工業技術院(KIST)の様な、政府の出捐によって設立運営されている非営利法人格を持つ研究機関や病院などが含まれる。「大学」には国公立、私立を含む全ての大学が含まれる。「企業」には政府出資企業を含む全ての企業が含まれている。こうした分類に従って 部門別のR&D支出の動向をみると、R&D支出総額の70%強は企業が占め、国公立・財団法人の試験研究機関が20%を、大学が残りの8%を占める。一方資金負担の構造からみると、政府の負担割合は16%と極めて小さい。

 

表1 R&D資金の支出と負担のフロー(1994年)  単位:10億ウォン

負担\支出主体

試験研究機関

大学

企業

負担額計

政府

981.4

170.4

105.4

1,257.10

民間

557.7

437.9

5,638.90

6,634.50

外国

1.6

0.5

1

3.1

支出総額

1,540.60

608.9

5,745.30

7,894.70

(出典)科学技術処、「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、Table 2-10

(3) 人材の雇用構造

R&D従事者の総数は19万人(1994年)であり、その半分弱の9万人が企業に、4割に相当する75000人が大学に、そして残りが試験研究機関に雇用されている。労働力人口1万人あたりのR&D活動従事者数は約95人である。

韓国の調査では、1988年からOECDのフラスカティ・マニュアルに準拠した「フル・タイム換算(full-time equivalent)」ベースの調査が行われている。これによればR&D従事者の総数は約13万人であり、内研究者が約9万人である。

 

(流出頭脳の呼び戻し)

もう一つの人材供給源として、海外に流出した頭脳の呼び戻しも懸命に行われている。韓国からの留学生は毎年5万人前後に達しており、特に自然科学、工学部門での博士号取得者はその半数程度が米国留学による取得者達で占められている。これへの対策として、政府はKOSEFを中心として財政的な支援を含む積極的な呼び戻し策を講じており、1994年までに帰国した在外科学者、技術者数は2,000人を超える。

 

表2a R&D従事者の雇用構造(1994年)   単位:人

部門

試験研究機関

大学

企業

合計

機関数

217

244

2179

2640

研究従事者合計

26,137

74,877

89,284

190,298

研究者

15,465

42,700

59,281

117,446

 内博士

4,725

26,475

2,789

33,998

 内修士

7,083

15,050

16,592

38,725

 内学士

3,407

1,105

36,379

40,893

 その他

248

70

3,512

3,830

研究補助員

2,427

27,068

13,166

42,661

技術・技能職

4,241

1,760

8,140

14,141

支援業務従事者

4,004

3,349

8,697

16,050

 

表2b フルタイム・ベースでみたR&D従事者(1994年) 単位:FTE

部門

試験研究機関

大学

企業

合計

研究従事者合計

24,255

31,924

85,061

135,537

研究者

14,278

17,365

57,375

89,018

研究補助員

2,124

11,126

12,331

25,581

技術・技能職

4,099

1,283

7,505

12,887

支援業務従事者

3,754

2,180

8,150

14,084

(出典)表2a、2bともに「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、Table 2-15

 

表2c 在外科学者・技術者の帰国数       単位:人

 

68-89年

90年

91年

92年

93年

94年

合計

永久帰国

1,015

36

n.a.

n.a.

n.a.

n.a.

1,051

一時帰国

711

84

130

96

72

34

1,127

合計

1,726

120

130

96

72

34

2,178

(出典)Science and Technology in Korea 1995, Table 4.7(4) 研究分野と研究段階

 

韓国の調査では研究分野別の数字は研究者数しか捉えられていないので、社会経済目的別のR&D支出額の数字を以下に示しておく。全体の約半分が工業振興であり、運輸・通信、エネルギーを併せると約7割に達する。国防研究の占める比率は5%強である。一方研究段階別に見ると、全体の62%が開発研究であり、応用が24%、基礎研究が14%となっている。

 

表3 社会経済目的別のR&D支出(1994年)   単位:10億ウォン

部門

試験研究機関

大学

企業

合計

農林漁業振興

250

28

71

349

工業振興

307

92

3,543

3,942

エネルギー

172

20

191

382

運輸・通信

247

15

859

1,121

都市・地域開発

15

15

171

201

環境

53

15

156

224

健康・医療

82

66

141

289

社会開発

1

25

192

218

地球観測

26

6

25

58

知識の増大

19

181

23

224

宇宙

0

1

30

32

国防

325

7

74

406

その他

44

137

267

448

合計

1,541

609

5,745

7,895

(出典)「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、Table 2-46

 

表4 研究段階別のR&D支出(1994年)   単位:10億ウォン

研究段階

試験研究機関

大学

企業

合計

基礎研究

235

333

565

1,132

応用研究

439

154

1,288

1,881

開発研究

867

122

3,893

4,882

合計

1,541

609

5,745

7,895

(出典)「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、Table 2-5

 


2 科学技術行政機構と政府のR&D活動

(1) 科学技術行政機構の概要

韓国における科学技術政策が形成され始めたのは1960年代の後半である。1967年には科学技術行政を担う中心機関である「科学技術処」が発足し、「科学技術振興法」が制定された。今日科学技術政策を担うのは主要には次の3省庁である。

◯科学技術処(MOST : Ministry of Science and Technology):1967年に首相府直属の機関として設立された。多数の政府出捐研究機関(GRI : Government-supported Research Institutes)を擁し、また多数のナショナルR&Dプロジェクトの推進に当たる。

◯商工資源部(MOTIE : Ministry of Trade, Industry and Energy):貿易、産業、エネルギー・資源政策を所管するが、科学技術政策についても産業の競争力に直結する分野を担当している。

◯情報通信部(MIC : Ministry of Information and Communication):1992年の機構改革により情報通信政策を一元的に実施する行政機関として発足した。

 

【科学技術政策関連の主な法律】()内は制定年と所管を示す

◯科学技術振興法(1967年、科技処):科学技術振興に関する基本法。

◯科学技術教育法(1967年、科技処):科学技術教育、社会的啓蒙に関する基本法。

◯技術開発促進法(1972年、科技処):企業のR&D活動促進のための税財政上の措置について定めたもの。

◯特定研究所支援法(1974年、科技処):企業の自社研究所設立を支援するための税財政上の措置とその要件について定めたもの。

◯産業技術研究組合育成法(1986年、科技処):単独で自社研究所を設立できない中小企業や個人が共同で研究組合を設立する場合の支援措置について定めたもの。

◯産業開発法(1986年、商工資源部):従来からあった7つの産業別「開発法」を統合したもの。商工資源部が推進するナショナル・プロジェクトの基礎となっている。

◯基礎科学研究促進法(1989年、科技処):大学や研究機関における基礎研究促進のための財政支援について定めたもの。

◯共同研究開発促進法(1994年、科技処)

◯工業技術基盤造成法(1994年、商工資源部)

◯情報化促進基本法(1995年、情報通信部)

 

 


(2) ナショナルR&Dプロジェクト

韓国における政府のR&D資金の大部分は幾つかの「ナショナルR&Dプロジェクト」を通じて研究機関、企業、大学に支出されている。その第1号は科技処が1982年に開始した「特定研究開発事業」であり後続ナショプロのモデルともなった。日本の「大プロ」と異なるのは参加する企業もまたプロジェクトへの資金拠出を求められることでり、実際、韓国のナショプロでは政府と同額あるいはそれ以上の資金が企業から拠出されてきた * 82年以降企業のR&D支出が政府のそれを上回るようになったという事実を見る限り、企業R&Dの「呼び水」としての役割は大いに評価されよう。

次に87年には商工部が「工業基盤技術開発事業」をスタートさせた。科技処の推進する事業がどちらかと言えば長期的かつ基礎的、商工部が推進する事業はどちらかと言えば産業競争力直結型と整理されるが、本事業では日本の「次世代産業技術開発事業」や「基盤センター事業」と同様にジェネリックな要素技術を対象とした研究開発が行われている。翌88年には資源部(MOER : Ministry of Energy and Resource)が「代替エネルギー技術開発事業」及び「省エネルギー技術開発事業」を開始した。後に商工部と資源部が統合されて商工資源部(MOTIE)となったため、この3事業は現在では商工資源部が所管している。

更に91年には国際的に国家情報通信基盤(NII : National Information Infrastructure)構築を巡る議論が高まる中で、情報通信分野の新たな研究開発事業がスタートした。この事業は当初通信部と商工部によってそれぞれ独自に開始されたが、翌92年の政府機構改革で商工部の情報産業政策部門と通信部とが統合されて情報通信部(MIC)となったため、現在では情報通信部の所管となっている。なおこの事業資金は政府の科学技術予算ではなく「情報化促進基金」によって支えられている。このように韓国のナショプロは日本と同様、幾つかの政府省庁間で競争的に取り組まれてきたが、92年には新しい省際的なプロジェクト「HANプロジェクト」がスタートした(これについては(4)項で後述する)。

 

表5 主要国家研究開発事業の予算推移   単位:億ウォン

事業名

89年

90年

91年

92年

93年

94年

合計

特定研究開発

3,460

1,200

1,070

1,300

1,030

1,461

9,521

工業基盤技術開発

530

496

712

727

887

1,414

4,766

代替エネルギー技術開発

60

75

88

50

71

65

408

エネルギー節約技術開発

-

-

2

37

93

140

272

情報通信研究開発

-

-

268

361

970

1,212

2,811

環境工学研究開発

-

2

2

2

31

93

129

新薬開発研究開発

-

1

6

17

19

62

105

建設技術開発

-

-

-

-

-

12

12

農業技術開発

-

-

-

-

-

150

150

(出所)「産業技術白書」1995年版(3) 研究機関

 

韓国における「研究機関」は次のようなカテゴリーに分けられており、合計217の研究機関をこのカテゴリーと主たる研究分野とによって分類すると表6aのようになる。

◯国公立研究機関:中央政府ないし地方政府によって設立・運営されている研究機関。

◯政府出捐研究機関:非営利法人であるが政府の出捐を受け、またR&Dの実施についても多くの資金を政府から受けている。

◯その他の非営利法人:政府の出捐を受けていないその他の非営利法人。医学関係のR&Dを行っている病院もこれに含まれる。

 

3)国公立研究機関

まず国公立研究機関を見ると、合計88の機関のうち農業関係が67機関であり、その他の分野は、医学関係14機関、自然科学5機関、工学関係2機関と、圧倒的に農業の比重が高い。研究予算の配分を見ても82%が農業関係である。これは、戦後、韓国の科学技術体制が整備される過程で、産業技術に関連の深い分野は産業界との密接な関係の下に運営していくことが重要であるとの考え方に従い、後述する「政府出捐非営利法人」の形で整備が進んだ結果であると考えられる。なお研究資金の財源は99.8%が政府である。工学関係の国立研究所は以下の2機関である。

◯産業技術標準研究院(NISRI : National Industrial Standards Research Institute

◯生産技術研究院(KAITECH : Korea Academy of Industrial Technology

 

(4) 政府出捐非営利法人:GRIs

合計30機関のうち、21機関が工学関係である。その第1号でもあり、またその後のモデルともなったのが KIST で知られる韓国科学技術研究院(Korean Institute of Science and Technology)である。KIST1966年に設立された。設立当初から米国との密接な協力関係にあり、設立時の支援は米国バッテル研究所(Battel Memorial Institute)から行われた。70年代にはKISTの成功に倣って多数の分野で政府出捐法人が設立された。これらはその後の整理統合を経て、今日では表6c及び表6dに示される研究機関がある。

基本的にはナショプロを初めとする官民のR&Dプロジェクト推進を業務としている。非営利法人としての設立認可にあたり所管省庁が決まるが、R&Dプロジェクトの受託に当たっては所管省庁以外のプロジェクトも受託しているようだ。日本の国立研究所と異なり形式上は民間非営利法人であるから、所属する研究者は公務員法の制約を受けず、また国有財産法や会計法の制約もない。一方R&D資金の財源を見ると、表6bに示されるように財源の65%は政府資金である。残り35%に相当する3,533億ウォンが企業からの資金であるが、これも更に詳しく見ると政府出資企業からの委託費がそのうちの2,069億ウォンを占めており、純粋に民間からの資金と言えるものは950億ウォンに過ぎないことがわかる。このように財政的には政府資金を十分に活用しつつ、運営においては民間として行動する、という米国のGOCOGovernment-owned Company-operated)方式にも似た形態はこれまでのところ有効に機能してきたといえる。

 

表6a 研究機関の分野別分布状況(1994年)

 

農業

医学

自然科学

工学

合計

中央政府

21

3

2

1

27

地方政府

46

11

3

1

61

政府出捐機関

3

1

5

21

30

公私立病院

0

45

0

0

45

その他

0

5

5

44

54

合計

70

65

15

67

217

(出典)「科学技術統計年鑑」、1995年、Table 2-22

 

表6b 研究機関のR&D活動(1994年):分野と財源  単位:10億ウォン、人

 

国公立

政府出捐

その他の

合計

 

研究機関

研究機関

財団法人

 

機関数

88

30

99

217

R&D支出合計

260.7

1,019.70

260.3

1,540.60

 うち農業

212.5

35.1

 

247.6

 うち医学

41.9

45.7

 

87.6

 うち自然科学

4.4

70.5

 

74.9

 うち工学

1.8

1128.8

 

1130.6

財源別内訳

 

 

 

 

 政府

260.2

665

56.2

981.4

 民間

0.5

353.3

203.9

557.7

 外国

0

1.4

0.2

1.6

R&D従事研究者

4,214

8,313

2,938

15,465

(出典)「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、Table 2-10

 

表6c 政府出捐研究機関一覧     95年末現在

機関名

設立年

所在地

人員

出捐金

韓国科学技術研究院 (KIST)

66.2

ソウル

788

36,317

(付)システム工学研究所 (SERI)

82.1

大田

336

20,411

(付)生命工学研究所 (GERI)

85.2

大田

222

9,799

(付)科学技術政策管理研究所 (STEPI)

87.1

ソウル

123

6,669

(付)研究開発情報センター (KORDIC)

93.4

大田

33

6,023

韓国科学技術院 (KAIST)

71.2

大田

716

49,636

韓国原子力研究所 (KAERI)

73.2

大田

1,568

33,352

(付)原子力病院 (KCCH)

73.2

ソウル

836

-

(付)原子力環境管理センター (KEMAC)

90.9

大田

317

-

韓国海洋研究所 (KORDI)

73.1

Ansan

334

20,819

韓国標準科学研究院 (KRISS)

75.12

大田

464

19,460

(付)天文台 (KAO)

74.9

大田

84

7,399

(付)基礎科学支援研究所 (KBSI)

88.8

大田

89

10,308

韓国資源研究所 (KIGAM)

76.5

大田

459

13,915

韓国化学研究所 (KRICT)

76.9

大田

413

14,821

韓国電気研究所 (KETRI)

76.1

Changwon

323

7,986

韓国機械研究所 (KIMM)

76.12

Changwon

571

28,554

(付)航空宇宙研究所 (KARI)

89.1

大田

160

12,934

韓国科学財団 (KOSEF)

77.5

大田

112

17,466

韓国エネルギー技術研究所 (KIER)

77.8

大田

339

10,509

韓国原子力安全技術院 (KINS)

87.6

大田

278

11,172

光州科学技術院 (K-JIST)

93.11

光州

32

32,120

電子部品総合技術研究所(KETI):商工部

91

仁川

238

n.a.

産業技術情報院(KINITI):商工部

91

ソウル

197

8,149

韓国電子通信研究所 (ETRI):通信部

76

大徳

n.a.

n.a.

(注)下段の3機関を除き、すべて科学技術処の所管である。

(出典)科学技術処、「'95科学技術年鑑」、p.4971 R&D活動の概況 D

 

(5) 最近の政策動向

HANプロジェクト)

92年には新しい省際的なプロジェクト「HANプロジェクト」がスタートした。HANHighly Advanced Nationalの頭文字をとったものであるが、同時に「韓」の字音ともなっている。プロジェクトによって主担当省庁と関係省庁を決め、省際運営を目指すという仕組のようだ。現在のところ以下の14分野のプロジェクトが推進されている。

【製品技術開発】

@新規薬品および農業化学品

A広帯域ISDN開発

B高品位TV開発

C次世代乗用車技術開発

【基礎技術開発】

@超大規模集積回路(ULSI)開発(西暦2000年迄に1G DRAMを開発)

A情報・電子・エネルギー用新材料開発

B先進製造技術開発(CIMIMS

C新規能生物材料開発

D環境技術開発

E新エネルギー技術開発

F次世代原子炉開発

 

(基礎研究の振興)

韓国の場合、自然科学分野での基礎研究を主として担っているのは大学である。近年政府は「1997年までにR&D支出の10%を大学での基礎研究に投じる」との目標を掲げ、そのための施策を講じている。その一つが拠点大学への「研究センター」設置であり、以下のスケジュールに従い3種類のセンター設置を進めつつある。

 

研究センターの種類

1993

1994

1995

1996

1997

1998

SRCs : Science Research Center

14

14

17

17

20

20

ERCs : Engineering Research Center

16

21

21

21

26

30

RRCs : Regional Research Center

-

-

3

14

14

14

 

この他、全国4ヵ所(大徳、ソウル、釜山、大邱、光州)に展開している基礎科学支援研究所(Korea Basic Science Institute)に大型の共同利用施設を整備する計画も進んでいる。大邱にはプラズマ研究のための施設"Hanbit"が完成し(956月)、浦項には韓国初のシンクロトロン放射光設備として、1.8億ドルを投じて2GeVの出力を有する"Pohang Light Source"が開設された(9412月)。

またこれと並んで、韓国に「ノーベル賞」級の科学者を集めた基礎研究所を設置しようとの計画もある。

 

(サイエンス・シティーの地域への展開)

韓国において大徳にサイエンス・シティーの建設が決定されたのは1973年のことであるが、以後20年余を経て多くの大学、研究所が集積し、大徳は名実ともに研究・学園都市として成長した。この成功を踏まえて更に光州への第2研究学園都市建設が始まっている。この計画は1991年に承認され、2001年完成の予定である。


3 高等教育の体制と大学のR&D活動

(1) 高等教育の体制

韓国には国公立50校、市立194校、併せて244校の大学がある。大学への進学率は既に4割近くに達しており、高等教育は少なくとも量的には飽和水準にあると言える。

韓国における大学設立の歴史は、米韓修好通商条約締結(1882年)後に米国の宣教師グループによって延世、梨花、崇実、高麗等の私立学校が設立されたことに始まる。1910年の日韓併合に始まる日本の植民地時代にも、京城医学専門学校(1916年)、京城帝国大学(1924年)が設立された。しかしこれらの教育機関に学んだのは主として日本人であり、独立時点の韓国には理学士(B.Sc.)の学位を持つものはわずか11人しかいなかったという。

独立後、京城帝国大学を核として1946年に国立ソウル大学が設立され、以降、釜山、全州、大邱、大田、光州等の全国の各道主要都市に国立大学が設立され、急速に高等教育体制の整備が進んでいった。

(韓国科学技術院:KAIST

こうした伝統的な大学と並んで、科学技術分野で重要な役割を果たしているのが韓国科学技術院(KAIST : Korea Advanced Institute of Science and Technology)である。71年に研究活動と一体となった高等教育の場を提供する大学院大学として、米国で研究生活を送る多数の研究者を教授陣として呼び戻し、当初KAISKorean Advanced Institute of Science)の名称で設立された。他の大学と異なり文部省でなく科技処に所属し、学費は無料であった。その後81年に研究機関であるKISTとの合併が行われたが、研究部門(KIST)と教育部門(KAIS)の関係がうまくいかず、結局89年に再びKISTと分離されて今日のKAISTとなった。設立以来延べ2000人を超えるPh.D8,000人を超えるM.Sc.を送り出してきた。92年には米国のAccreditation Board for Engineering and Technologyから「世界のトップ10校となりうる潜在力を持った大学」とのお墨付を得た。

(浦項科技大学:POSTECH

浦項科技大学(Pohang University of Science and Technology)は、1986年に浦項製鉄(POSCO : Pohang Steel Co.)がスポンサーとなって設立された。教官はほとんどが米国から帰国した研究者達であり、また他の国立大学では教官:学生数の比が20301であるのに対して、浦項では81となっている。

 

(2) 大学のR&D活動

R&D人材の配置を見ると韓国の大学は博士号取得者の8割弱を占めているにもかかわらず、大学におけるR&D支出は国全体のR&D支出の8%を占めるに過ぎない。今日主要なR&D活動の拠点となっているのはソウル国立大、KAISTPOSTECHの3校のみであるとも言われている。その一つの指標としてSRCERCの配置を見ると、全国に17箇所設置されたSRCの内の9箇所、21箇所設置されたERCの内の14箇所がこの3大学に設置されている。他の大学の内、慶北国立大、延世大、釜山国立大の3校にはSRCERCが各1箇所づつ置かれ、他校にはいずれかが1箇所置かれているのみである 1 。下表に示されるようにR&D従事者のうちフルタイムのR&D従事者はわずか5%であり、FTEベースで見ても4割である。多くの研究者が教育に追われ、R&D活動に時間を割く余裕が必ずしも十分でない様子が見て取れる。また大学の研究活動における評価システムの欠如、競争圧力の欠如の問題もしばしば指摘されている。

表7a 主要高等教育機関一覧(設立年順)

大学名

設立年

区分

所在地

教官数

学生数

成均館大学( Sung Kyun Kwan )

1398年

私立

ソウル・水原

450

21,000

延世大学( Yonsei Univ. )

1885年

私立

ソウル

936

32,523

崇実大学(Soong Sil Univ.)

1897年

私立

ソウル

182

7,510

高麗大学(Korea Univ.)

(旧Posung College)

1905年

私立

ソウル

627

21,685

中央大学(Chung Ang Univ.)

1918年

私立

ソウル

1,390

27,574

漢陽大学( Hanyan univ. )

(旧Hanyang Inst.of Tech.)

1939年

私立

ソウル

950

27,000

国立ソウル大学

1946年

国立

ソウル

1,601

24,536

国立釜山(Pusan)大学

1946年

国立

釜山(Pusan)

756

25,942

朝鮮大学(Chosun Univ.)

1946年

私立

光州(Kwangju)

556

26,164

国立全北(Chonbuk)大学

1947年

国立

全州(Chonju)

705

23,865

檀国大学(Dan Kook Univ.)

1947年

私立

ソウル

321

13,557

国立慶北(Kyungpook)大学

1952年

国立

大邱(Taegu)

777

26,584

国立忠南(Chungnam)大学

1952年

国立

大田(Taejon)

822

18,086

国立全南(Chonnam)大学

1952年

国立

光州(Kwangju)

1,102

24,871

ソウル市立大学

1952年

市立

ソウル

148

5,000

仁河大学(Inha Univ.)

1954年

私立

仁川(Inchon)

471

21,233

韓国科学技術院(KAIST)

1971年

注2

大田

327

n.a.

浦項工科大学校(POSTECH)

1986年

私立

浦項(Pohang)

n.a.

n.a.

光州科学技術院 (KJIST)

1993年

注2

光州

n.a.

113

(注1)表のトップに掲げた成均館大学は14世紀末の李氏朝鮮時代初頭に設立された官吏養成のための儒教道徳教育機関である。六百年近い歴史を有し、おそらく今日世界に現存する唯一の儒教研究機関であろう。しかし今日では総合大学となっている。設立年の1398年というのはミスプリではない。

(注2)KAIST及びPOSTECHは政府出捐研究機関と同様の法人格を有する教育機関である。

(出典)The World of Learning 1996

 

 

 

表7b 大学におけるR&D活動(1994年):分野別  (単位:人)

研究分野

R&D従事研究者数

同左(F.T.のみ)

同左(F.T.E.)

自然科学

10,230

716

-

工学

16,968

560

-

医学

8,506

291

-

農学

2,290

148

-

人文・社会

2,812

97

-

合計

42,700

1,964

17,365

(出典)科学技術処、「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、Table 2-23

 


4 民間企業のR&D活動と政府の振興策

(1) 民間企業のR&D活動

(業種別動向)

産業別に見ると韓国企業のR&D支出は電気・電子分野へ著しく集中している。下表において電子・電気分野のR&D支出額は約2兆ウォンに達し、産業界におけるR&D支出の3分の1を超える。これに次ぐのは自動車、造船等の輸送機械分野、化学、建設の3分野であり、それぞれ全体の22%12%7%を占める。

 

表8a 産業別のR&D活動(1994年)    単位:10億ウォン

産業分類

大企業

中小企業

合計

食品・飲料・煙草

109

17

126

繊維・皮革・家具

72

22

94

紙・紙製品・印刷

18

11

29

化学工業

568

111

679

非金属鉱物産業

47

8

55

基礎金属

158

13

171

金属製品・機械

301

92

393

電気・電子機械

1,748

221

1,969

精密機械

6

4

47

輸送機械

1,152

118

1,270

その他製造業

13

8

21

電力・通信

97

7

103

建設

363

23

385

運輸・通信

147

4

150

技術サービス

118

94

202

全産業合計

4,943

802

5,745

(注)農林水産業は除いた。

(出典)「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、表13

 

(企業研究所の設立動向)

1970年代から政府は企業のR&D活動振興のための様々な税制、金融措置を講じてきたが、特に独立した研究所組織の設立を奨励してきたために、19957月現在で企業の設立した研究所は2,166機関に達し、そこで働く研究者の総数は6万人を超えるまでに成長した。また単独で研究所を設立・維持することが難しい中小企業や個人に対しては研究組合(Research Unions)の設立を奨励してきたが合計1,487社(同前)がこうした研究組合を設立するに至っている。

 

(地域間のアンバランス)

研究所の設置地域を見ると、その67%がソウル及び仁川を含む京畿道に集中しており、次に半島南東部の慶尚道(釜山、大邱を含む)で17%、半島東海岸中部の忠清道(大田を含む)で10%と続く。半島南西端の全羅道はわずか3%、その他地域(江原道及び斉州道)は合計で3%となっている。「大徳サイエンス・シティー」はこうした地域間のアンバランス是正のために忠清道の大田に建設されたのであったが、政府出捐研究機関のほとんどが立地しているにもかかわらず、企業研究所の集中度はそれほど高くない。政府は次なる是正策として、第2のサイエンス・シティーを全羅道の中心都市光州に建設中である。

 

表8b 企業付設研究所の分布(業種/地域別、19957月現在)

業種

ソウル

釜山

大邱

仁川

大田

京畿

忠清

慶尚

合計

機械・金属

53

18

26

60

18

154

45

128

525

 

(35)

(12)

(22)

(47)

(12)

(116)

(36)

(76)

(369)

電気・電子

446

446

19

11

40

15

221

39

43

 

(384)

(19)

(11)

(32)

(10)

(170)

(29)

(23)

(695)

化学工業

25

12

10

30

30

194

45

73

460

 

(12)

(4)

(8)

(20)

(9)

(126)

(29)

(44)

(272)

食品工業

13

-

1

6

3

31

5

4

67

 

(12)

-

-

(3)

(1)

(7)

(2)

(3)

(18)

繊維工業

8

1

6

-

4

10

3

8

42

 

(5)

(1)

(4)

-

-

(2)

(2)

-

(14)

その他

123

5

3

6

9

40

8

11

209

 

5

(70)

(2)

(2)

(5)

(2)

(25)

(5)

5

合計

668

55

57

142

79

650

145

267

2,166

 

(508)

(38)

(46)

(107)

(34)

(446)

(103)

(153)

(1,487)

 (注)下段()内の数字は中小企業による設立数。

(出典)産業技術白書

 

R&D活動の大企業への集中)

もう一つのアンバランスがR&Dの一部大企業グループへの集中の問題である。韓国の調査ではR&D活動の集中の実態を捉えるために、上位10社、20社、40社等の集中度が計算されている。最も集中が著しいのは電気・電子機械産業および輸送機械産業であり、上位5社で7割、上位10社で8割を超える。

 

表8c R&D活動の集中度(1994年)

業種

企業数

R&D支出合計

上位5社

上位10社

上位20社

化学

443

679

35.9

49.5

60.8

電気・電子

414

1,969

73.2

80.5

84.9

輸送機械

171

1,270

70.3

83.7

89.9

全産業合計

2,179

5,745

33.8

43.7

54.4

(出典)「科学技術研究開発活動調査報告」、1995年、Table 2-43

 

(海外への研究所設立)

一方、韓国産業の積極的な海外進出に伴ってR&D活動の現地化も進み始めた。これは特に半導体産業、自動車産業で著しく、三星電子、大宇電子などは米日欧それぞれの市場に研究所を置くまでになった。

 

表8d 海外研究所の設立状況(1994年まで)

 立地国

米国

日本

欧州・ロシア他

企業名

LG化学、第一製糖、東洋精密、SKC、東部レミコン、三星電子、LG電子、大宇重工業、三星物産、油工、双龍精油、起亜自動車、世進創業住宅、亜南半導体、東国製薬、善一葡萄糖、テレウェイ

LG電子、三星電子、フィニシステム、大宇電子、三星電気、浦項製鉄、西安電子、一進電子、起亜自動車、現代自動車等

油工、三星電子(英、露)、大宇電子(仏)、洪重物産(露)、漢羅重工業(露)、オリオン電気、三星電子デバイス(独)

設立数

27

12

15

(出典)産業技術白書及びOECDレポート

 

(2) 政府の振興策

以下に主な振興措置を列挙しておく。

【税制上の優遇措置】

@R&D準備金への非課税措置:売上高の4%まで非課税のR&D準備金を積み立てることができる。

A人材育成費の税額控除:社内の人材育成のために要した費用の15%までを税額控除できる。社内に設けた訓練施設も対象となる。

BR&D設備投資の税額控除:R&Dに必要な設備投資を行った場合、投資額の10%までの税額控除を受けられる。

【補助金・融資等】

C国家プロジェクト参加企業に対するR&D支出補助:国家プロジェクト参加企業が支出したR&D費用の50%までを補助。個人、中小企業の場合には8090%までを補助。

D新製品開発等のための低利融資:新製品・新プロセスの開発、新技術の商品化に必要な投資に対し韓国開発銀行(KDB : Korea Development Bank)等が長期・低利の資金を提供。

Eベンチャーキャピタル:ベンチャー育成のため、韓国技術金融公社(KTB : Korea Technology Banking Corp.)が出資、融資、設備リース等の様々な形態で支援。

 

【参考文献】

韓国科学技術処、「1995科学技術年鑑」、1995

韓国科学技術処、「1995科学技術研究開発活動調査報告」、1995

韓国産業技術振興協会、「産業技術白書」、1995

韓国産業技術振興協会、韓国技術研究所総覧、1995/96

「法典」1996年版、玄岩社

イム・ヂョンヒョク編著、「朝鮮の科学と技術」、明石書店、東京、1993

李星鎬、「韓国における近代大学の登場」、『アジアの大学』所収、玉川大学出版部、1993

Ministry of Science and Technology, Science and Technology in Korea 1995

OECD, Reviews of National Science and Technology Policy : Republic of Korea, 1996

The World of Learning 1996, 46th Edition, Europe Publications, England, 1996

Hyung-Sup Choi, Science and Technology in Industrialization : South Korea's Experience, Institute of Strategic and International Studies ( ISIS ) , Malaysia, 1990 


本稿はJETROの発行する「JETRO技術情報」(JETRO Technology Bulletin)383号、19982月に掲載された筆者の原稿を、JETROの許可を得て再掲したものです。再掲にあたって、小見出しの追加などの修正を行っています。引用の際には、JETRO技術情報, 383, pp.1-36, 1998.と記載してください。


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