講義ノート

  ビジネス方法特許

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since 2001/06/21

修正 2002/06/11

目次
  1. ビジネス方法特許とは何か?

  2. ビジネス方法特許の具体例

  3. 公開・登録件数

  4. ビジネス方法特許を巡る論争【※】

  1. 【参考文献】

  2. 【演習問題】

  3. ビジネス特許関連事項年表

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【※】は本講義では扱いません。

1.ビジネス方法特許とは何か

「ビジネス方法特許」あるいは「ビジネスモデル特許」の定義については、国により捉え方も若干異なり、また流動的でもありますが、日本の特許庁は、「汎用コンピュータや既存のネットワーク等を利用した新しいビジネス方法に関連する発明」と定義しています(特許庁の審査基準)。

もう少し具体的に言うと、コンピュータ・ソフト、特に最近ではインターネットを用いた電子商取引や金融ビジネスに関する新しい方法ということができます。ここでいう商取引の対象は、ネット上の販売、経理、投資、入札、金融、人材紹介、予約、各種サービス提供など、実際上経済活動のあらゆる分野が対象となります。

しかしまったく新しい概念というわけではなく、コンピュータ・システムを用いた各種のビジネス・システム・インフラ(決済方法、電子マネー等)は日本の特許庁でも従来から「ソフトウェア技術」の範疇で捉えていたものであり、これを特定のビジネス領域に適用した応用システムについても、同様にして「ソフトウェア技術」の範疇で特許発明と捉えらることができると考えられています。但し、単なる「人為的な取り決め」等、日本の特許法にいう「発明」に該当しないものは特許発明とは言えません。

日本の特許法は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」を「発明」と定義しています。「自然法則」とは自然界において経験によって見出される科学的な法則のことで、発明は自然法則を利用することが条件となります。つまり、自然力を利用して一定の結果ないし効果を一定の確実性をもって反復継続し得ること、すなわち再現性があることが条件となります。ゲームのルールや、商売方法のように、「自然法則」でないもの、「万有引力」のように自然法則そのもの、エネルギー保存の法則に反する永久機関等は、特許法上の「発明」とはなりません。(特許庁「工業所有権入門、平成11年度版)

なお用語について、日本では「ビジネス・モデル特許」といった表現が一般化していますが、欧米では「ビジネス・メソッド」という表現が多く用いられているようです。本講義ノートでは、特許庁の用語に従い、「ビジネス方法特許」とします。

 

⇒特許庁、「ビジネス方法の特許について」(平成12年10月)
 http://www.jpo.go.jp/info/interbiji0406.htm

 

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2.ビジネス方法特許の具体例

このセクションでは、各種のビジネス方法特許について、典型的なものを紹介します。基本特許といわれるものについては特許へのリンクも張ってあります。詳しく調べたい場合には、特許番号をもとに、各特許庁の検索サイトを用いて全文を出力してください。

また特許庁が作成している次の資料は最近の動向について、具体例を多数紹介していますので参考になります。

 

⇒特許マップ「電子商取引・金融ビジネス」
 http://www.jpo.go.jp/ryutu/map/denki19/frame.htm

 


日本:JPO/IPDL


米国:USPTO/DB


欧州:EPO/PATLIB

 

2.1 電子商取引関連

有名になった特許として、オンライン書籍販売で急成長を遂げたアマゾン・ドット・コム社の「ワン・クリック特許」(米国特許第5,960,411号)がある。インターネット上の商品リストから注文品を選んで仮想の買い物篭に入れ、最後に決済・送品に必要な情報(名前、住所、クレジット・カード番号等)を送信して発注する。最初の買い物時に登録しておけば、次回からは商品選択という一回の操作(ワン・クリック)だけで取引を完了することができる。同じく書籍販売のバーンズ・アンド・ノーブル社がこの特許を侵害しているとしてアマゾン社から訴えられ、バーンズ社は結局システムを修正した。この他にも、アマゾン社が取得した特許にはインターネット上での安全なクレジット番号配送などに関する多数の特許(米国特許第5,715,399号第5,727,163号等)がある。
http://www.amazon.com(アマゾン・ドット・コム)

  • バーチャル・モール方式(Virtual Mall)

インターネット上の仮想モール(商店街)を構築し、ここに多数のショップを集めてオンライン販売を行う方式。モール運営者はモール全体に共通するシステムの構築・運営を行うとともにモール全体を宣伝し、入居する各ショップは出店の権利金や売上に応じた使用料を払う。単独で出店する場合と比較して顧客からのアクセス回数は遥かに多くなることが期待される。典型的なバーチャル・モール特許としてはオランダのWegener Internet Projects BVによる方式(米国特許第5,737,533号)が知られている。この特許を読むと、極めて一般的なバーチャル・リアリティー技術が記載されている。

  • オークション方式(Auctions)

販売業者がインターネット上に商品を紹介し、一定期間内に最高価格をオファーした顧客に販売する。いわゆる「競り落とし」のプロセスをオンライン上に実現したもの。E-Bay社のオークション・サイトが有名となった。
http://www.ebay.com

  • 逆オークションン方式(Reverse Auctions)

通常のオークションとは逆に、まず顧客が購入希望価格を提示する。これを仲介者が販売業者に提示し、その条件で販売に応じるという販売業者との間に売買が成立するという方式。航空券の販売に適用されて爆発的な人気を呼んだ。ビジネス特許の典型としてよく引き合いに出される。プライス・ライン社が所有する逆オークション特許(米国特許第5,794,207号)が基本特許といわれる。埋もれていた取引を活性化するという点で経済の活性化に貢献している。勿論法外な値段の提示は拒否される(No Reasonable Offer Refused)。
http://www.priceline.com(プライス・ライン社の航空券販売サイト)
http://www.perfectyardsale.com(同社のその他商品売買サイト)
逆オークション特許を含め、関連するインターネット上で行われる各種仲介技術の技術動向・出願動向について、特許庁資料「インターネット上の仲介ビジネスについて」に解説されている。

注文生産方式(Build-to-order)

デル・コンピュータ社はインターネットを介して顧客の仕様を受け付け、72時間以内にカスタム・メイドのコンピュータを出荷するという方式で業績を急成長させた。デル社はこの方式を(Build-to-order business model"と名づけ、特許(米国特許第5,894,571号第5,991,543号第5,995,757号等)を取得した。デルのサイトをみると、インターネット上での販売を開始した1996年6月以降、パソコン販売台数が飛躍的に成長していることが分かる。また、デル社はこの特許を活用することによりIBM社との間でクロス・ライセンスを含む160億ドルという巨額のOEM契約を締結することに成功したという。
http://www.dell.com

 

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2.2 日本的な「半オンライン販売」方式

  • 日米の流通事情の差

以上、米国における電子商取引関連のビジネス特許を見てきたが、商品流通のスタイルにはそれぞれのお国振りがある。米国はその国土の広さから、消費者は古くから通信販売に慣れ親しんできた。カタログで商品を選び、小切手を郵送して代金決済を行うという方式である。前項で述べたオンライン販売・オークションなどはいずれもこうしたライフスタイルの延長上に位置する。

これに対して、日本の消費者は通信販売に対して米国の消費者ほどの親しみを持たない。歩いて数分で商店街やコンビニに行けるという便利さを日常的に享受しているからである。いちいち車を走らせて、何キロも或いは何10キロも遠くの町まで行かなければならない米国の消費者とは環境が異なるのである。

 演習(1)  以下のデータを用いて商店までの平均アクセス距離を試算・対比されたい。住民や商店の平面分布に対して様々な分布を仮定することで推定値にも幅が生じるが、どれがもっともらしいか考えてみるのも良いだろう。

表1 日米の商店数密度比較

 

日本

米国

国土面積(平方キロ)

377,873

9,629,091

総人口(千人)

126,919

275,563

小売商店数(店)

1,406,884

1,118,447

人口密度(人/平方キロ)

 

 

商店密度(店/平方キロ)

 

 

平均アクセス距離(キロ)

 

 

出典:両国の面積と人口はCIA, The World Factbook 2000。面積には内水面の面積を含む。日本の商店数は「平成11年商業統計表」の小売商店数。米国の商店数は"1997 Economic Census: Retail Trade"の事業所数。なお米国の国土面積の約30%は森林であり、日本の国土面積の67%は森林である。森林面積を差し引いて計算すると日米の差は更にひろがる。

 

こうした中で、身近な流通ネットワークであるコンビニを商品の引渡しや決済の窓口として活用しようという動きが盛んになってきた。日経新聞2000年5月10日の記事『ビジネスモデル特許広がる−コンビニが相次いで出願』には以下のような事例が紹介されている。これらの特許出願はまだ公開の時期を迎えていないようなので、この記事をもとに簡単に紹介しておく。

ファミリーマートの「ECフランチャイズ・システム」

取引手数料に対するフランチャイズ加盟店舗の「取り分」を明確にしたビジネスモデルである。このモデルでは、フランチャイズ加盟店はそれぞれに仮想店舗を開設する。消費者は行き付けの仮想店舗にアクセスして商品を注文し、店頭や宅配で商品を受け取る。ネットで決済し、店舗を素通りして宅配される商品では加盟店の取り分は無視されるのが一般的だが、このモデルでは消費者の選んだ仮想店舗にこれを配分する。一点集中管理できるネットワークのメリットを敢えて捨てて、実物の加盟店組織をそのまま仮想空間に持ち込むという方式は「末端のインセンティブ」を大事にする、いかにも日本的な手法である。

セブン・イレブンの「ネット通販代金収納代行業務」

コンビに店舗が、他社のネット販売商品の代金収納代行業務を行い、入金情報を衛星回線で迅速に販売業者に伝送し、商品配達までの所要時間を短縮しようというアイデアである。

ローソンの「店頭端末による代金収納代行システム」

ネット通販商品などの注文時に発行される登録番号をローソンの店頭端末に打ち込むと払込票(請求書)が発行され、顧客はそれを代金とともにレジで渡す事により通常の買い物と同じ様に支払が出来るという仕組みである。

日米のアプローチの差

2000年T学期の「産業技術政策論」期末レポートとして提出された或る留学生のレポートの中に、「こんなに流通の発達した日本で、情報技術がこれ以上一体どれほどの役を果たすというのか」という印象深い一節があった。上記にあげた幾つかのビジネス特許の実例は、言ってみればいずれも直接のオンライン決済と逆行する「半オンライン」を志向したビジネスモデルである。全国津々浦々にまでコンビニが行き渡った高密度国家日本ならではアプローチである。こうした日本的アプローチは、便利な日本の流通を更に限界的に一歩押し進めるといった段階にあるといったら冷やかし過ぎであろうか。

このような差の生じるもうひとつの理由はECに取り組む主体の相違である。米国のビジネスモデルの多くは、出来る限り仲介業者を排除した、流通システムの単純化を志向する(disintermediation)。新しいECビジネスの起業家たちの多くは実体としての物流を自分で保有しようとしない、「情報の仲介者」である(infomediary)。これに対して日本のそれは実体としての物流組織を所有する既存の経営主体が情報技術の活用へと向かう動きが主流をなしているといえそうである。

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2.3 金融取引関連

投資管理システム
シグネチュア社の「ハブ・アンド・スポーク特許」(Hub and Spoke)

米国におけるビジネス特許政策の転換点となった「ステート・ストリート銀行事件判決」(本稿4.1.項参照)において訴因となった特許(米国特許第5,193,056号)。金融機関向けのシステム・リース等を行う米国のシグネチュア・ファイナンシャル・グループ社は、多数の投資基金(ミューチュアル・ファンド)からの資金を運用する大型投資機関向けの資金運用管理システムとして「ハブ・アンド・スポーク特許」と呼ばれる技術を開発した。これは各基金に属する個人投資家達が、コンピュータを介して日々の投資運用状況に関する情報を把握することを可能とするものであり、1991年に特許出願され、1993年5月に特許が成立した。この方式は急速に米国投資機関の間に普及し、1990年代後半における米国株式の高騰を支える要素ともなったといわれる。この技術を利用していたステート・ストリート銀行は、伝統的な「ビジネス方法除外原則」の適用を期待してこの特許の無効を主張したが連邦巡回裁判所(CAFC)は1998年7月に伝統的解釈を覆す判決を下し、「ビジネス特許」ブームの火付け役となった。

電子マネー

現在では様々な形態の電子マネー技術が開発・実用されており、特許化されているものも多い。中でも有名なものは、シティーバンクの特許であり、1995年1月に出願され、同年10月には米国特許(米国特許第5,455,407号)が成立した。この技術は日本にも出願され、国内で大きな話題となった。
参考:
日本銀行坂本哲也氏による「電子マネーのおはなし」
http://www.boj.or.jp/wakaru/etc/emoney.htm

デリヴァティブ(金融派生商品)と金融工学

「デリヴァティブ」とは、通貨、金利、債券、株式を対象とした、先物、先渡、オプション、スワップといった取引の総称である。価格や金利の計算には複雑・高度な確率計算が必要であり、高度な数学の援用とコンピュータ・システムなしには成立しない金融商品である。日経新聞2000年6月24日付記事は『数理科学に商機あり』という見出しで金融工学の発展を紹介しており、最近では日本の理工系大学にも金融工学を標榜するところが登場している。

この分野の先駆者の一人である東工大の今野浩教授は、金融工学におけるイノベーションは分散投資の理論を明らかにした次ぎの三つの理論を基礎に、その情報システムへの実装を通して開花したと解説する(日経新聞経済教室2000年8月3日付)。
@マーコビッツ=シャープの平均=分散理論
A金融商品の価格形成メカニズムを明らかにしたブラック=ショールズ=マートンのデリバティブ理論
Bこれを一層精緻化したハリソン=クレプス=プリスカの無裁定原理と同値マルチンゲール測度理論

デリバティブ分野で有名なコロンビア大学の取得した特許(米国特許第5,940,810号)を調べてみると、特許フロントページの引用文献欄には、Journal of Complexity、Bulletin of Amer. Math. Societyといった学術誌からの引用文献が10篇以上も並ぶ(各自チェックされたい)。

アセット・ライアビリティー・マネージメント(Asset Liability Management)

金融機関の資産と負債を総合的に管理することにより、リスクの最小化と利益の最大化を実現する手法ないしこれを実現するシステム。

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3.公開・登録件数

3.1 米国

米国特許商標庁は、1997年にビジネス特許専門の分類(Calss 705)を設けており、これ以前の特許についても遡及して分類を行っているため、ビジネス特許の取得件数は明確に把握することができる。

3.2 日本

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【参考文献・参考サイト】

  • 特許庁「特許から見た金融ビジネス」−日米の金融技術力格差−
    http://www.jpo.go.jp/info/kinyuu.htm

  • 特許庁「インターネット上の仲介ビジネスについて」、2000年6月
    http://www.jpo.go.jp/info/tyuukai.htm

  • ビジネスモデル学会
    http://www.biz-model.org/

  • 特許LINKS

  • ヘンリー幸田、「米国ビジネス特許の現状と動向」、JETRO技術情報、No.413、P.1-P.28、2000年8月

  • 業界別ネット・ビジネス・モデルの脅威
    週刊エコノミスト、2000年9月26日号、56‐84頁

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© Yoshiki Mikami 2001       last updated 2002/06/11