政策科学概論 講義ノート
  技術者倫理(その1)

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since 2002/06/23


目次

  1. なぜ「技術者倫理」か

    1. 技術への信頼を失わせるような事故の多発

    2. 技術者資格の国際化

  2. 学協会の「倫理綱領」を読む

    1. 社会の安全、環境の保全、人類の福祉のために

    2. 事実及び専門家としての知識と良心に基づく判断

    3. 能力の継続的な研鑚

    4. 社会・公衆に対する説明責任

    5. 雇用者あるいは受託者としての契約の遵守

    6. 自己の能力の限界に対する認識

    7. 他者の知的成果、知的財産の尊重

    8. 法令等の遵守

    9. 不当な利益を得ない

    10. 情報倫理(ネットワーク倫理)

  3. 社会における技術者の責任(以下、その2参照)

  4. 学協会の役割

【リンク集】

【演習問題】

【脚注】

【参考文献】


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1. なぜ「技術者倫理」か

1.a. 技術への信頼を失わせるような事故の多発

 

 

問1 上記の各事件で問われるべきは誰のどのような責任でしょう?また、関与した技術者が問われるべき責任は何ですか?いずれかの事件を選んで考えて(想像して)ください。

 

 

 

 

   


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1.b. 技術者資格の国際化

問2 APECエンジニアとしての登録に必要な5要件とは何ですか?

  1.  

  2.  

  3.  

  4.  

  5.  

問3 JABEEの認定基準が述べる「技術者倫理」の定義は?

 

 

問4 技術者資格の国際的相互承認に伴って「技術者倫理」が取り上げられうようになったということは、これまでの日本の社会に技術者倫理の問題が欠落していた、ということでしょうか?あるいは、海外の学協会でも最近になって技術者倫理の問題が取り上げられるようになったのでしょうか?

 

 

 

 


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2. 学協会の「倫理綱領」を読む

最近は「声に出して読みたい日本語」という本(齋藤孝、草思社、2002年)がベストセラーになっているそうです。自分の関係する(あるいは自分の専門に近い)学協会の「倫理綱領」を、声に出して読んでみましょう


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「倫理綱領」に共通する基本的理念

  1. 社会の安全、環境の保全、人類の福祉のために

  2. 事実及び専門家としての知識と良心に基づく判断

  3. 能力の継続的な研鑚

  4. 社会・公衆に対する説明責任

  5. 雇用者あるいは受託者としての契約の遵守

  6. 自己の能力の限界に対する認識

  7. 他者の知的成果、知的財産の尊重

  8. 法令等の遵守

  9. 不当な利益を得ない

  10. 情報倫理ネットワーク倫理)

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a. 社会の安全、環境の保全、人類の福祉のために

  • 技術者としての自己の能力を発揮する究極的な目標は何なのか?

  • 「公衆の安全を全てに優先させてその職務を遂行し、・・・」(原子力学会)

  • 「自らの専門的知識、技術、経験を活かして、人類の安全、健康、福祉の向上・増進を促進すべく最善を尽くす」(機械学会)

  • 「自然を尊重し、現在および将来の人々の安全と福祉、健康に対する責任を最優先し、人類の持続的発展を目指して、自然および地球環境の保全と活用を図る」「固有の文化に根ざした伝統技術を尊重し、先端技術の開発研究に努め、国際交流を進展させ、相互の文化を深く理解し、人類の福利高揚と安全を図る」(土木学会)

  • 「情報処理技術がもたらす社会やユーザへの影響とリスクについて配慮する」(情報処理学会)

  • 「人類と社会の安全、健康、福祉に貢献するよう行動する」(電気学会)

  • 倫理綱領に掲げられる目標は「安全」、「環境」、「福祉」だけではありません。「平和」が加えられることもあります。

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b. 事実及び専門家としての知識と良心(のみ)に基づく判断(独立性)

  • 「自己の属する組織にとらわれることなく、専門的知識、技術、経験を踏まえ、総合的見地から土木事業を遂行する」「専門的知識と経験の蓄積に基づき、自己の信念と良心にしたがって報告などの発表、意見の開陳を行う」(土木学会)

  • 「人類の持続可能性と社会秩序の確保にとって有益であるとする自らの判断によって、技術専門職として自ら参画する計画・事業を選択する」(機械学会)

  • 「事実を尊重し、公平・公正な態度で自ら判断を下すよう努力する」(原子力学会)

  • 「技術士は、・・・技術的良心に基づいて行動する」(技術士倫理綱領)

  • 「技術上の主張や判断は、学理と事実とデータにもとづき、誠実、かつ公正に行う」(電気学会)

問5 専門家としての独立した判断を歪める可能性としてどのような要因がありうるのでしょうか?

 

 

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c. 能力の継続的な研鑚(Continuing Professional Development)

  • 「自己の専門的能力の向上を図り、学理・工法の研究に励み、・・・」(土木学会)

  • 「常に技術専門職上の能力・技芸の向上に努め、・・・」(機械学会)

  • 「たえず専門能力の向上に努め、・・・」(情報処理学会)

  • 「医師は生涯学習の精神を保ち、つねに医学の知識と技術の習得に努めるとともに、・・・」(医の倫理綱領)

  • 「現行の法制度(特に電子情報通信に関連する法制度) についての知識を常に更新し、その学習に努める」(電子情報通信学会)

  • 現在の日本の技術者資格は必ずしも資格の更新を必要とせず、また更新時に継続教育を要件としていませんが、今後は継続教育が技術者資格の維持・更新の要件となるものと考えられます。

    • APECエンジニア
      登録の5要件の一つとして「継続的な専門能力開発(CPD)を満足すべきレベルで維持していること」が求められている。具体的には・・・

      • 毎年50CPD時間(時間重み係数を考慮した時間)程度

      • 5年間で250CPD時間

  • 土木学会認定CPDプログラム

問6 あなたの関係する学協会や業界団体ではCPDプログラムが提供されていますか?提供されている場合にはその内容を記入してください。

 

  

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d. 社会・公衆に対する説明責任(Accountability)

  • 「会員は、自らの有する情報の正しさを確認するよう心掛け、公開を旨とし説明責任を果たすよう行動する」(原子力学会)

  • 「会員は,関与する計画・事業の意義と役割を公に積極的に説明し,それらが人類社会や環境に及ぼす影響や変化を予測評価する努力を怠らず,その結果を中立性・客観性をもって公開することを心掛ける」(機械学会)

  • 「長期性、大規模性、不可逆性を有する土木事業を遂行するため、地球の持続的発展や人々の安全、福祉、健康に関する情報は公開する」「自己の業務についてその意義と役割を積極的に説明し、それへの批判に誠実に対応する」(土木学会)

  • 「技術的判断に際し,公衆や環境に害を及ぼす恐れのある要因については,これを適時に公衆に明らかにする」(電気学会)

  • 「社会に対して不当な損害を招き得るいかなる可能性をも公にし、排除するよう努力する」(建築学会)

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e. 雇用者あるいは受託者としての契約の遵守

  • 「技術的業務に関して雇用者、もしくは依頼者の誠実な代理人、あるいは受託者として行動する」(土木学会)

  • 「会員は、専門職務上の雇用者あるいは依頼者の、誠実な受託者あるいは代理人として行動し、契約の下に知り得た職務上の情報について機密保持の義務を全うする。それらの情報の中に人類社会や環境に対して重大な影響が予測される事項が存在する場合、契約者間で情報公開の了解が得られるよう努力する」(機械学会)

  • 「会員は、本憲章の他の条項に抵触しないかぎり、専門の業務に関し契約のもとに誠実に行動する」(原子力学会)

  • 「依頼者との契約や合意を尊重し、依頼者の秘匿情報を守る」(情報処理学会)

  • 「技術士は、業務を受けるにあたり、事前に相手方に自己の立場、業務の範囲などを明確に表明して契約を締結し、当該業務遂行上両者間で紛争が生じないように努める」「技術士は、つねにその業務にかかる正当な利益を擁護する立場を堅持し、業務上知り得た秘密を他に漏らしたり、または盗用しない」(技術士会)

問7 契約上の秘密保持義務と公衆に対する説明責任

雇用者あるいは受託者としての契約上の義務と、「倫理綱領」の他の条項との間に衝突がある場合どのように行動するべきなのでしょうか?こうした場合の対応のあり方については上記の各綱領の間に若干のニュアンスの相違があります。

特に契約上の義務の中には多くの場合「職務上知りえた秘密の保持」に関する規定が含まれます。そして「倫理綱領」の多くは「職務上知りえた秘密の保持」を規定しています。仮に、職務上知りえた情報の中に人類社会や環境に対して重大な影響が予測される事項が存在する場合どのように行動すべきなのでしょう?あなたの意見は?

 

 

 

 

 

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f. 自己の能力の限界に対する認識

  • 「自己の専門外の業務あるいは確信のない業務にはたずさわらない」「技術士は、自己の専門範囲以外にわたる事項を表示したり、誇大な広告はしない」(技術士倫理綱領)

  • 「会員は、自らの能力の把握に努め、その能力を超えた業務を行なうことに起因して社会に重大な危害を及ぼすことがないよう行動する」(原子力学会)

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g. 他者の知的成果、知的財産の尊重

  • 「他者の知的財産権と知的成果を尊重する」(電気学会他)

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h. 法令等の遵守

  • 「法律、条例、規則、契約等に従って業務を行い、・・・」(土木学会)

  • 社会人として法令の遵守は当然のことです。一般的には、合法的な行為のオプションよりも倫理的な行為のオプションの方が狭いわけです。

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i. 不当な利益を得ない

  • 「・・・不当な対価を直接または間接に、与え、求め、または受け取らない」(土木学会)

  • 「技術士は、その業務に対する報酬以外に、利害関係のある第三者から、不当な手数料、贈与、その他これらに類するものを受け取らない」(技術士会)

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j. 情報倫理(ネットワーク倫理)

  • 「ネットワークへのアクセスは、許されているプロセスあるいは資源に限定する」「他者の管理するシステムに許可なく侵入しない。また他者の通信に不正にアクセスしない」「ネットワークに対して情報を提供するときは、真正な情報のみを提供する」「ネットワーク上での広報、発表における節度ある態度を保持する」(電子情報通信学会)

  • 「情報システムや通信ネットワークの運用規則を遵守する」「社会における文化の多様性に配慮する」「情報システムの開発と運用によって影響を受けるすべての人々の要求に応じ、その尊厳を損なわないように配慮する」「情報システムの相互接続について、管理方針の異なる情報システムの存在することを認め、その接続がいかなる人々の人格をも侵害しないように配慮する」「情報システムの開発と運用について、資源の正当かつ適切な利用のための規則を作成し、その実施に責任を持つ」(情報処理学会)

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k. その他の規定

  • 「他者の生命、財産、名誉、プライバシーの尊重」(電気学会他)

  • 「すべての人々を人種,宗教,性,障害,年齢,国籍に囚われることなく公平に扱う」(電気学会他)

  • 「会員は、国際社会における他者の文化の多様性に配慮し、個人の生来の属性によって差別せず、公平に対応して個人の自由と人格を尊重する」(機械学会他)

  • 「社会における文化の多様性に配慮する」(情報処理学会)

  • 「自己の管理下にある構成員に対してもその遵守を促す」(電子情報通信学会)

  • 「責任感、品位の保持」(技術士会他)

  • 「他の専門家集団との協力」(技術士会他)

  • 「他者と互いの能力・技芸の向上に協力し、専門職上の批判には謙虚に耳を傾け、真摯な態度で討論すると共に、・・・」(機械学会)

  • 「自己の人格、知識、および経験を活用して人材の育成に努め、それらの人々の専門的能力を向上させるための支援を行う」(土木学会)


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【リンク集】

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(準備中)

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【脚注】

[1] この他にも、鉄道建設業協会「新幹線トンネル覆工技術検討会」(発足)、日本土木工業協会「トンネル及び高架橋コンクリート検討WG」、建設省「道路トンネル耐久性検討委員会」、鉄道総合技術研究所「山陽新幹線コンクリート建造物検討委員会」など、関連する多数の報告書がまとめられているようです。


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【参考文献】

[1] 川上正光、「工学と創造」、共立出版、1977年初版。本学の初代学長が執筆した工学(技学)を志す若者への書。技術者倫理を主題として書かれたものではありませんが、研究や仕事への取り組みの姿勢について様々な示唆を受けると思います。本学開学(1976年10月、第一回の学部入学式は1978年4月)の翌年である1977年5月に初版2,500部でスタートし、翌1978年10月までの約1年5カ月の間に7回増刷され、合計14,000部が刊行された名著です。現在は絶版ですが、本学図書館はじめ多数の大学図書館に所蔵されています。また、本学教官の多くも手元にお持ちだと思います。

[2] 畑村洋太郎、「失敗学のすすめ」、講談社、2000年

[3] 米国NSPE(全米プロフェッショナル・エンジニア協会)倫理審査委員会編、(社)日本技術士会訳、「科学技術者倫理の事例と考察」、丸善、2000年


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© Yoshiki Mikami 2002       last updated 2002/07/02