国際化時代の技術者資格

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since 2001/07/11

修正 2002/07/12

目次
  1. 資格制度の 意義と本講の狙い

  2. 資格の種類

業務独占資格

必置資格

公的資格

民間資格

  1. 様々な技術者資格

  1. 技術者の国際化をめぐる動き

  1. 学協会と技術者資格制度

  2. 行政改革と技術者資格

【脚注】

【参考サイト】

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1.資格制度の意義と本講の狙い

技術者の活躍する多くの分野に、様々な資格制度があります。そして、これらの資格制度は次のような目的を達成するために置かれています。

  • 専門的知識・技術を持つ人材を配置することにより、社会の安全や人命を守る

  • 産業活動やサービス提供における一定の技術レベルの担保

  • 技術を認定することにより、技術者を育成する

欧米では中世以来の職人のギルド組織に類似した技術者協会が技術者自らの手によって組織され、メンバーとなることのできる技術者についての認定基準を定め、審査し、資格の付与を行ってきた、という伝統があります。イギリスにおける機械技術者協会(IME: Institution of Mechanical Engineers)や土木技術者協会(ICE: Institution of Civil Engineers)、米国における機械技術者協会(ASME: American Society of Mechanical Engineers)等です。また、社会もその権威を受け入れ、政府調達への応札や事業実施の際の基準として、こうした資格を持った専門的技術者が関与していることを条件とする、などの扱いが行われてきました。そして、技術者協会は、こうした社会からの付託・信頼に応えるために、メンバーの行動を律する「倫理綱領」を定めるなどしてきたわけです。(詳しくは講義ノート「技術者倫理」参照)

 

一方、日本では、明治以降様々な分野で学協会が組織され、工学分野でも多数の学協会が存在していますが、その活動内容はアカデミックな活動を主たるものとしており、学協会自らが技術者資格の基準を定めたり、資格審査を行ったりということはしてきませんでした。むしろ、技術者資格の多くは法令などを根拠として定められ、国家試験によって資格審査を行うということが行われてきました。当該分野の専門家が、政府の設ける試験や審査の場に関与しすることはもちろんですが、資格の付与はあくまでも政府の名の下で行われてきたのです。

 

欧米の仕組みも、日本の仕組みも、社会的に果たしている使命という点では同じですが、両者の間には、このような歴史的、社会的な背景の相違があることをまず認識する必要があります。そして、今日、あらゆる分野で国際化が進展する中で、いよいよ技術者資格に関する領域でも「国際化」が課題となり、日本における技術者資格制度も大きな変革期を迎えているわけです。その動向について学習しようというのが本講の狙いです。

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2.資格の種類

上記のように、日本における技術者資格の多くは法令に根拠をもつものが多く、近年、様々な民間資格も登場していますが、伝統的で権威ある資格の多くはこうした国家資格として定められてきたものです。その多くは明治時代に始まる歴史を持ち、特定の事業や業務の実施に必要な要件の一部として資格が定められてきました。こうした国家資格は技術者資格に限らず、弁護士、会計士、医者、看護婦など、専門的職業の全ての分野にわたり存在します。

民間資格を含めてこれらを分類すると、次のようになります。(太字は本学の学生が取得することの多い資格を示しています)

  • 国家資格(法律に基づいて認定する資格)

    • 業務独占資格
      =当該資格を持った者以外は一定の業務活動に従事できないもの
      [例] 不動産鑑定士、弁護士、公認会計士、税理士、教員
      弁理士電気工事士、海技士、操縦士、測量士建築士

    • 必置資格
      =事業場において当該資格者を配置することが義務付けられているもの
      [例] 放射線取扱主任者、計量士、エネルギー管理士電気主任技術者
      ボイラー・タービン主任技術者公害防止管理者
      自動車整備士、気象予報士
      無線従事者電気通信主任技術者工事担任者
      宅地建物取引主任者、危険物取扱者

    • その他の国家資格
      [例] 技術士

業務独占資格と必置資格との相違は、前者が個人の資格をもってできる業務であるのに対して、後者は事業を行うのはあくまでも組織であり、技術者はその一員として働く、という相違です。技術士という資格は「技術士法」という法律に根拠をおきますが、特定の業務に関して独占が認められているわけではなく、また技術士を必置とするという事業もありません。

  • 公的資格

[例] 情報処理技術者、消費生活アドバイザー、
実用英語技能検定(英検)、CG検定、

  • 民間資格

[例] TOEIC、TOEFL、パソコン検定、
ソムリエ、インテリアコーディネーター
オラクルマスター、シスコ技術者認定、MCP(マイクロソフト)

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3.様々な技術者資格

以下に代表的な国家資格とその根拠法令を例示しておきます。

日本における主な技術者資格制度(国家資格)

資格名称

根拠法例等

技術士 

技術士法

無線従事者 

電波法

電気通信主任技術者 

電気通信事業法

工事担任者 

電気通信事業法

測量士 

測量法

建築士 

建築士法

宅地建物取引主任者 

宅地建物取引業法

弁理士 

弁理士法

電気工事士 

電気工事士法

電気主任技術者 

電気事業法

エネルギー管理士 

エネルギー使用合理化法

計量士 

計量法

公害防止管理者 

公害防止組織の整備に関する法律

毒物劇物取扱責任者 

毒物及び劇物取締法

危険物取扱者 

消防法

 

【参考】
資格について調べるためのサイト

http://village.infoweb.ne.jp/~sikaku/index.htm

http://plaza11.mbn.or.jp/~katsumi_t/

 

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4.技術者の国際化をめぐる動き

国境を越える技術者の活動

国際貿易、国際的投資活動などあらゆる分野で企業活動の国際化 が進む中で、技術者の国境を越えた活動も活発化し、技術者資格に関してもその国際化が求められる時代となってきました。

 

例えば、技術者の国境を越えた活動が顕著な分野の一つがソフトウェア技術者の分野です。あるジャーナリストは、「インド人技術者なくしてシリコンバレーは一日も立ち行かない」と述べています[1]。実際、米国コンピュータ企業へ行けば、そこで多くのインド人技術者に出くわしますし、筆者の友人であるあるインド人技術者は、「自分の大学時代の同級生の半分以上は現在ではアメリカにいる」とのべていました。インテルについて書かれたノンフィクション『インサイド・インテル』を読むと、「ペンティアム・プロジェクト全体の皇帝でインテルの副社長でもあるインド生まれのエンジニア」としてヴィノド・ダーム(Vinod Dham)が登場するし[2]、サンマイクロシステムズの創設者であるヴィノド・コースラ(Vinod Khosla)はニューデリーで生まれ、インド工科大学を卒業したあとアメリカへわたってきた若者です[3]

 

米国の科学技術者の25%は外国生まれ

技術者の国境を越えた移動が国家間の技術移転をもたらし、それがひいてはその国の命運を左右する、という事例は古今東西の歴史のなかに見ることができます[4]。戦後の米国の科学技術の発展にしても、戦前におけるヨーロッパからの大量の科学者の流入なくして存在しなかったはずです。筆者は数年前にハンガリーを訪れたとき、ハンガリーの大学関係者が「ハンガリー人科学者がいなかったら戦後のアメリカの力ははるかに小さいものであった」と自慢するのを聞きました。確かに、今日のコンピュータ技術の基礎を作ったフォン・ノイマンも、水爆を作ったサハロフもハンガリー人です(ユダヤ系ハンガリー人)。彼らはナチスの迫害に追われて祖国を去り、アメリカへと渡ってきたのです。米国科学財団(NSF: National Science Foundation)の調査によれば、米国の科学者・技術者の総数480万人のうち12.7%(1993年)が外国生まれであり、博士号保有者45万人に限ってみれば26%が外国生まれだそうです[5]。今日でもなお、アメリカの科学技術力は国境を越えてやってきた科学者、技術者にその多くを負っているのです。

 

米国の大学で自然科学系の博士号をとるアジア人学生の推移を見てみると、1980年代までインド人と台湾留学生が大多数を占めていたことが分かります。こうした形成されたインドや台湾とアメリカをつなぐ人的ネットワークが、インドにおけるソフトウェア産業の成功、あるいは台湾における半導体・コンピュータ産業の成功に際して大きな前提条件となっていることはいうまでもありません。その後、韓国からの学生も増加しつつあり、また、1989年の「天安門事件」以降は、中国からの留学生が急激に増加しています。こうした留学生の流れは、近い将来において大きな意味を持ってくるものと思われます。(参考までに日本人学生の博士号取得者数も示していますが、それは一貫して百数十名のレベルにとどまっています。日本からの留学生の多くは企業派遣でもあるために必ずしも学位取得にこだわらない、といった理由が考えられますが、)

 

図  米国の大学におけるアジア人の自然科学系Ph.D取得者数

出典:NSF, Selected Data on Science and Engineering Doctorate Awards, 1995年版及び1999年版

 

また、米国は1990年代、積極的な入国管理政策をもってこうした外国生まれの技術者の力を積極的に活用するという政策を採ってきました。米国のH1-Bといわれるビザは、移民を前提としない時限的な就労許可を与えるビザですが、特にIT産業やバイオテクノロジー産業などにおける人材不足を解消するために、1990年代の米国はこのビザの発行条件を大いに緩和してきました。このビザでの入国を支援するH1-B Sponsors.comというサイトを見れば、そのリアルな動きが分かります。2001年の世界貿易センターテロ事件以降若干の変化はあるものと思われますが、こうした外国人技術者の取り込みなくして米国の産業は成長できないのです。

 

APECエンジニア制度の誕生

こうした中で、アジア太平洋地域の21カ国[6]が参加する『アジア太平洋経済協力』(APEC: Asia-Pacific Economic Cooperation )という枠組みのもとで、域内における共通技術者資格であるAPEC Engineer制度が発足するにいたりました。1996年に韓国のソウルで開催されたAPEC科学技術大臣会合では、「2010年までに技術者の越境移動を妨げる制度的・非制度的障害を低減させる」ことが宣言され、主たる制度的障害である各国の入国管理政策についての検討が進められています。

その際、入国審査時に共通に利用できる資格基準があれば審査はより迅速かつ正確・公平なものになります。また企業が技術者を採用したり、入札者の技術力を審査する際にも、こうした共通資格制度があれば大いに便利なことです。こうしたことから、APEC全域に通用する技術者資格制度を目指してAPECエンジニア制度が誕生し、2000年11月からその登録が開始されたのです。その詳しい紹介は省略しますが、詳しくは三上の講義ノート「APEC Engineer制度」を参照してください。

 

実際にはまだ参加国も限られていてAPEC全域というわけではありませんし、技術分野も当面は、civil engineering(土木)、structural engineering(建築)という2分野だけですが、今後、その対象は地域の範囲という点でも、また対称技術分野という点でも拡大していくものと予想されます。

 

日本工学教育認定機構(JABEE)の発足

APECエンジニア制度の発足が日本の工学教育に一つの変化をもたらすことになりました。それはこの制度が認定するエンジニアの要件として、

  • 認定・承認された工学教育(Acredited Education

  • 業務遂行能力

  • 7年以上の実務経験(修士課程を含む)

  • 2年以上の責任ある役割

  • 満足できるレベルでの継続的な専門能力開発(CPD)
    "Continuing Professional Development": 5年間で250CPD時間

という5つの基準を必要とすることになったからです。特に第一番目の認定・承認された工学教育課程を卒業している要件です。日本では「大学設置基準」という文部科学省の定める基準によって教育課程の認可が行われているわけですが、この点でも米国の仕組みとは異なります。欧米でも、初等教育は国が一定の基準を定めている場合もありますが、高等教育についてはおおむね国が基準を定めるのではなく、第三者の認定機構が基準を定め審査を行っています。米国の場合、工学教育分野ではABET(Accreditation Board for Engineering and Technology, 1934年設立)という組織がこうした技術者教育プログラムの認定を行っています。そこで、日本の技術者もAPECエンジニアの資格を取ろうとすればABETのような第三者による認定を受けた技術者教育プログラムを卒業していなければならないことになったのです。

 

こうした要請にこたえて、「日本工学教育認定機構」(Japan Accreditation Board for Engineering Education)という組織が生まれ、また認定基準が作られたのです。本学でも、2001年度に機械及び建設系でこの基準に基づく試行的審査が行われたのはご承知のとおりです。

  

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5.学協会と技術者資格制度

以上のように、技術者資格をめぐる国際化の動きは、われわれの身の回りにも様々な影響を及ぼし始めています。学協会のありかたも例外でなく、その社会的機能、あり方についての変化が生じ始めています。日本では、これまで国家資格や公的資格が中心であり、技術者資格制度と学会は無縁でした。しかしながら、資格制度の国際化、継続教育の必要性に対する認識の高まり、学協会のあり方に対する考え方の変化などを背景として、学会独自の技術者資格制度創設に取り組む動きも出てきています。

 

APECエンジニア制度で真っ先に対象となった土木技術者や建設技術者の世界では、関係学会でも速やかな対応がとられていますが詳しくは、土木学会のホームページを参照してください。今後、こうした動きは徐々に他の学協会にも広がっていくものと思われます。

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6.行政改革と技術者資格

もうひとつ、国内の事情からも技術者資格は変化の時機を迎えています。それは行政改革をめぐる動きの中で「業務独占的な資格制度の見直し」というテーマが議論されているからです。政府の決めた「規制改革推進3カ年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)では、この点について次のように書かれています。

 
5.資格制度関係

(1)資格制度関係の基本方針

@ 業務独占資格については、資格の廃止、相互乗り入れ、業務範囲の見直し、報酬規定の廃止、試験合格者数の見直し等を推進することにより、各種業務分野における競争の活性化を通じたサービスの向上、価格の低廉化、国民生活の利便向上を図る。(以下略)

A 必置資格等については、資格の廃止、必置単位の緩和、業務範囲の拡大、外部委託の活用等を推進することにより、事業者等の資格配置コストの低減、事業場配置に係る制約・条件の緩和等を図る。(以下略)

B 業務独占資格及び必置資格等を通じ、資格の内容・要件等を不断に見直すことにより、当該資格制度が本来追求すべき政策目的の効果的・効率的な達成を確保する。また、両資格を通じ、学歴・実務経験等の資格要件の見直し、試験科目の見直し、合否判定基準の公表等を通じ、資格取得を希望する者の負担を合理的かつ可能な限り軽減することを目指す。

C なお、公益法人が国から委託等、推薦等を受けて行う資格付与等の事務・事業については、公益法人に関する行政の関与の在り方の改革実施計画(平成14年3月29日閣議決定)に基づき、所要の措置を講じるものとする。

(以下略)

 

これについては、今後どのような動きとなるのか分かりませんが、注目しておくべき要素であることは間違いありません。

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【脚注】

[1] Claudia Cragg: The New maharajahs - The Commercial Princes of India, Pakistan and Bangladesh, p.85, Arrow Books, 1997.

[2] ティム・ジャクソン著、渡辺了介他訳:『インサイド・インテル(下)』、p.208、翔泳社、1997

[3] マーク・ホール、ジョン・バリー著、オフィスK訳:『サンマイクロシステムズ:UNIXワークステーションを創った男たち』、アスキー出版局、1991

[4] 例えば、薬師寺泰三:『テクノヘゲモニー』、中公新書等を参照されたい。

[5] National Science Foundation, Immigrant Scientists, Engineers and Technicians, 1993.

[6] APEC加盟国は現在のところ、日本、中国、韓国、台湾、香港、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランド、パプア・ニュー・ギニア(PNG)、米国、カナダ、メキシコ、ペルー、チリ、ロシアの21カ国。

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【参考サイト】

日本技術士会

日本工学会

日本技術者教育認定機構(JABEE)

APEC事務局

ABET: Accreditation Board for Engineering and Technology
http://www.abet.org/ 


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© Yoshiki Mikami 2001-       last updated 2002/07/12