0. はじめに
大学教育の新しい流れとして、「文理融合」という言葉を最近よく耳にします。社会を見回しても、ほとんどの仕事は文系・
理系両方の知識を備えて初めてきちんとこなせると考えます。また、情報化・グローバル化が進んだ今、ますます両者のバランスが要求されてきています。
数理工学・宇宙物理学研究室(MEAP
Group)では、理系の枠を超えて文系がわかる理系人間、そして文系の枠を超えて理系がわかる文系人間の育成、すなわち、幅広い視点をもって物事を科学的にとらえる事が出来る人間の育成をめざしていま
す。
現代では、統計学、定量分析、社会調査、マーケティングなど、多くの分野で数理的素養が求められて
います。数理工学・宇宙物理学研究室(MEAP
Group)では、将来、研究やビジネス社会で国際的な活躍をするために必要な情報数理(数学、物理学やコンピュータスキルなど)の知識、技術を身につけ
る事も目標にしています。
特に、
1. 数理的な素養
2. コミュニケーション能力
3. 論理的思考
4. 情報の高度な応用
という4つの力をバランス良く身につける事に重点を置いています。
長岡技術科学大学
情報・経営システム工学課程/専攻では、学部3年次後半に研究室に配属となります。4つの力を身につけたいと考えている元気のよい学生は、ぜひ一緒に数理工学・宇宙物理学研究室
(MEAP Group)で学びましょう。
また、大学院修士課程
(情報・経営システム工学専攻)、
博士後期課程(情報・制御工学専攻)の学生も受け入れています。
一緒に研究を進めたいと考えてい
る学生は、一度研究室を訪ねてみてください。
以下は、数理工学・宇宙物理学研究室(MEAP Group)で 特に力を入れている研究テーマです。数理工学・宇宙物理学研究室(MEAP Group)で 行なう研究テーマは、もちろん、必ずしも下記のテーマを扱う必要がありません。興味のある研究を楽しみながら一緒に進めて行きましょう。
こちらのインタビュー記事も参考にして
ください。
1.
重力波物理学の研究
キーワード:時系列データ解析、Linux、プログラミング、機械学習、統計処理、ハードウェア
重力波は時空の揺らぎが光と同じ速度で波動として伝わる現象で、アインシュタインの一般相対性理論によって予言されています。重力波が、中性子星やブラッ クホールなどのコンパクト星の連星系(コンパクト連星)から放射されていることは、連星パルサー PSR1913+16 などの電波観測で間接的に明らかにされてきました。重力相互作用は非常に弱いため、重力波を直接検出することは難しいとされていました。 近年のレーザを用いた微小計測技術の発展により、重力波を直接検出することが実現可能となりつつあり、そしてついに2015年9月14日にブラックホール 連星合体からの重力波を直接検出したと、米国LIGOプロジェクトにより2016年2月12日深夜(日本時間)に報告されました。このような状況の中、重 力波検出器によって得られたデータから 重力波の情報を取り出し、さらに、それを元に重力相互作用や天体現象に関する物理学的な研究を行うためには、データマイニング手法の確立がますます重要に なってきています。 数理工学・宇宙物理学研究室(MEAP Group)では、国内外の重力波観測プロジェクトのメン バーと協力し、重力波天文学の創成をめざし、情報処理や信号処理の知識を応用し たデー タマイニングの研究を進めています。
現在は、東京大学宇宙線研所が中心に進めている大型低温重力波望遠鏡計画 (KAGRA) のデータ解析グループと共に研究を進めています。また、NASA Goddard Space Flight Center などとも積極的に共同研究を進めています。さらに今後は重力波データマイニングの知識を地震研究のデータに適用する事を東京大学地震研究所と共同で進めて 行く予定です。
2017年度 博士論文
2016年度 修士論文
2.
数理工学(科学)の研究
(a)
運動時系列からの個人特徴の抽出と技能教育支援への応用
キーワード:時系列データ解析、機械学習、統計処理、プログラミング
センサデバイスの小型化に伴い、センサ(例えば加速度センサ)を使って、日常の動作や作業中の体の動きを計測・収集することが容易化しています。
特に、ゲーム(エンタテインメント)や機器の操作での活用を目的として、計測したデータからユーザの動作を認識する技術の開発が進んでいます。
しかし、単一の動作(例えば、立つ、歩くなど)を認識するだけでは、その応用範囲は限られ、自動車の運転やスポーツ、加工機械の操作などの訓練による習熟
の必要な作業において、
計測データから個人差や習熟の度合いを反映したパターンを抽出し、動作の「巧みさ」を定量的に評価することはできません。
そこで、我々のグループでは、操作/作業者ごとの個人差やスキルの定量評価を目標とし、身体動作の計測データから個人差や習熟度を考慮した特徴量パターン
を抽出するための
研究を進めています。
本研究は、基礎的段階ですが、開発を進め、人の身体動作における個人差や習熟度を、低コストかつ簡便に把握することができるようになり、技能教育支援へ
の貢献ができればと考えています。
例えば、自動車の運転において交通事故や交通違反の頻度には個人差のあることが知られています。そこで、運転者ごとのクセやスタイルといった個人ごとの違
いを明らかにすることができれば、個人にあった交通安全講習や技能教育方法の開発に貢献できると考えられます。また、身
体動作の計測・評価・支援技術が必要な分野(スポーツや芸術、産業における熟練技能の伝承など)への応用展開が期待できます。
また、2020年夏季、東京オリンピックが開催されます。夏季オリンピックでは多種多様な競技が行われますが、その中で日本人が特に得意とする競技の一
つに競泳(水泳)があります。
文科省から「金メダルを含む複数のメダルが期待される競技(ターゲットA種目)」と指定されています。
我々のグループの基礎研究をふまえ、センサデバイスから得られる加速度/角速度データを活用して、競技力向上に役立てるコーチング環境の構築を目指してい
ます。
具体的には、泳者の特徴をセンサデバイスデータから精緻に把握し、それに適合したアシスト情報(速く泳ぐために意識づけること、改善箇所など)を提供する
ことで競技力
向上に役立てる環境の構築を目指しています。
2018年度
修士論文
2017年度
修士論文
2016年度 修士論文
(b)オペレーションズ・リサーチ
や意思決定論および制御工学などの数理工学(科学)の分野の研究
キーワード:数理的な考え方、論理的な考え方、プログラミング
特に、同一資源を用いて複数プロセスを繰返し実行する離散事象システムのスケジューリング方法について検討を進めています。
本研究は、Dioid代数に基づくシステムのモデリングとその制御系設計問題として位置づけられています。Dioid代数系では、max, min,
and, or 演算など、通常の代数系では非線形な演算子を、 交換・結合・分配法則が成立するように加算および乗算の演算子に割り当てます。
こうすることで、通常の代数系では取扱いが困難な一部の非線形システムが、Dioid代数系では簡潔な線形モデルとして扱う事が出来ます。例えば、max
演算を加算、+演算を乗算と定義する代数系は、別名max-plus代 数あるいはスケジュール代数とも呼ばれ、
1)複数プロセスの並列実行
2)複数プロセスの同期
3)資源の非競合性
などの制約構造を有する離散事象システムの振る舞いが、簡潔な線形方程式で記述する事ができます。この表現形式は、現代制御理論における状態空間表現と類
似した形式であるため、
既存の制御理論の研究成果を、Dioid代数系に適用する試みを行なっています。また、実システムへの適用という点では、生産システムの他、交通システム
や通信ネットワーク、さらにプロジェクト管理に応用して行く事ができます。従来は勘と経験に頼らざるを得なかった、繰り返し実行型システムのスケジューリ
ング方法に関して、前進することが期待されます。
2017年度 修士論文
2017年度 修士論文
2016年度 修士論文
2015年度 修士論文
2014年度 修士論文
(c)
アクティブ・ラーニングを支援する CSCL (Computer Supported Collaborative Learning)
キーワード:教育工学、教育現場、統計解析、機械学習、人工知能
タブレット端末を用いた協調学習を支援するシステを開発しています。学習者が行うタブレット端末上の活動を収集し、行動記録や学習記録などと組み合わせた
教育データとして記録できるようにしています(edutab
システム)。この教育データを統計的な手法などを用いて分析できるようにし、教師のリフレクションに役立てることを目的
にしています。さらに、特徴抽出技術を用いて、リアルタイムに授業にもフィードバックできるようにし、教師の行う授業を支援し、質の高い授業の実現をめざ
しています。
また、2018年12月より、国立研究開発法人情報通信研究機構の委託研究
「データ連携・利活用による地域課題解決のための実証型研究開発:過疎地域の学校をAI(人工知能)が支援する遠隔協調学習システムで結ぶことにより地域
課題の解決に対応する取り組み」を「ICT」、「データサイエンス」、「教育」の専門家メンバーがタッグを組み進めています。
少子化の進行により、地域の小中学校では統廃合が進んでいます。1クラスの人数が10名以下となると授業の運営に課題が生じます。「21世紀型スキル」を
意識し、主体的で対話的で深い学び(いわゆるアクティブ・ラーニング)を行う事が求められています。このような学習を行うためには、協調学習やディベート
など複数の学習者が協同的に学習を行う必要があります。しかしながら、人数が少ないと例えばディベートを行うにしても、全員が同じ意見になってしまうこと
もあり、学習が成立しない場合もあります。この問題を解決する方法として、遠隔学習があります。地域の複数の小学校をネットワークで接続し、ネットワーク
上にTV会議システムを配置し、学習を行う形態です。しかしながら、クラスとクラスを接続するだけでは、一斉授業を相互に接続するだけであって、学習者同
士の主体的で深い学びには必ずしも結びつきません。そこで、我々は遠隔の学習者が持つタブレット端末を相互に接続し、それぞれの内容を閲覧することができ
る遠隔協調学習に着目しました。しかしながら、遠隔協調学習の事例はほとんどなく、授業の手法や教師の役割など、実施に向けては課題が多いです。とりわ
け、アクティブ・ラーニングでは学習者が主体的に活動を行っているため、他校の児童の様子を、対地にいる教師は直接見ることが出来ません。そこで、この問
題を解決する方法として、遠隔学習支援システムの中に人工知能を組み込み、学習者間の情報を抽出・分析・可視化し、教師に対してリアルタイムに、適切な学
習支援方法に関する情報をフィードバックするシステムを開発を進めています。
これまで教師の技量は経験で語られることが多かったと思います。しかし、授業が定量化でき、その結果をクラウド環境に蓄積することができると、そのデータ
をエビデンスとした授業の振り返り、授業分析などが行え、科学的な教師育成を行うことができるようになります。また、蓄積されたビッグデータは教育用AI
の開発や、自治体単位、国単位での教育分析手法の開発などにつながる可能性があります。「教師とAIが協働する」を合言葉に研究を進めています。
2015年度 博士論文